鋭敏な味覚を失ってしまったチャングム
王子様の麻痺の原因を突き止めるために、自ら王子様の口にしたものを食すことで自分も麻痺してしまったチャングム。
脚の痺れはおさまっても、味覚が鈍感になってしまったのでした。
王様のご膳をお出しするスラッカンの女官の味覚が異常になってしまったのは、一大事です。
王宮の外の医者にもかかりますが、医者が言うには、
「人が味覚を失う場合、大きく分けて原因は二つあります。
一つはよくあることで、風邪や栄養失調、伝染病にかかったりしたことによって味覚が落ちてしまう場合です。
もう一つは中風にかかったり、毒草や薬草を誤って食べてしまって味覚をつかさどる経穴が傷ついてしまう場合で、これを治すのは非常にむずかしいです。」
そして、この話の裏話が次のページに載っていました。
ずいぶん前から、作家からドラマの展開上、劇的な効果を出すためにチャングムの味覚をなくし、またそれを回復させる必要があるので、これに合った薬物と治療法を探してほしいと要請がありました。
「味覚には障害を誘発するが、言語には障害があってはならない」、「チャングムが味を感じないことは必要だが、舌が麻痺するとか体の一部に障害があってはならない」ということが基本であり、急にチャングムが大きな病気になるわけにはいきません。
ストーリーは大きく変えることなくドラマチックな状況でした。
このような状況に適合する薬剤はめったにありません。
一部食用植物と姿形が似ている毒性植物を食用植物と混ぜて食べる場合や、ゆでて食べなくてはならない食用植物をそのまま食べた場合等に副作用がみられます。
しかし麻痺症状はなかなかありません。
特に宮中のスラッカン(水刺間)で作られる食べ物だと考えると、そのような食べ物を王子が食べる可能性も低いことになります。
もちろん、食べ物で使用されない薬剤の中には麻酔効果や麻痺を起こすものもあります。
たとえば麻痺を誘発するものには、チョンオ(川鳥)、チョオ(草鳥)、ブザ(附子)のような毒性薬物があり、チョンナムソン(天南星)にも舌の麻痺を誘発するとのことで検討されましたが、採択されるには至りませんでした。
香辛料や食物に使用する漢方薬剤の中に、麻酔効果や麻痺をおこす漢方薬剤を探した結果、香辛料としても使用されるニクズクの油に麻痺効果があるということがわかりました。
作家はこれを基にストーリーを展開しながら、単に、ニクズクと人参を一緒に食べることで麻痺効果が現われ、その後遺症で味覚障害が現われるように設定したのです。
問題は、実際にドラマで放送されたことで誤解があったことです。
まるで人参とニクズクを一緒に用いてはいけないものだと誤解されたこと、実際に漢方薬で使う人参とニクズクを一緒に用いた時チャングムに現われたような麻痺症状が現われるのかということでした。
放送後、漢医学関係者からたくさんの抗議を受けた部分です。
もちろん、諮問チームはこの問題に気づき、台本を修正するよう意見を提示しましたが、時間が押し迫っていました。
何度も作家と演出が相談した結果、劇的構図上の問題とシナリオの作成及び、撮影時間の難しさを考慮して、ドラマ上では「ニクズク」を「ニクズクの油」に取り替えるということになりました。
しかし「ニクズクの油」という言い回しがむずかしかったのか、2・3回「ニクズク」と放送になってしまいました。
諮問チームとしては遺憾な部分でしたが、さまざな状況を考えるとどうしようもない部分だと認めざるを得ませんでした。
人参といっているのは、もちろん野菜のニンジンではなく高麗人参です。
薬膳仲間とも話をしていて、人参と肉豆蔲(にくずく、ナツメグのこと)を一緒に食べると麻痺が残る?、ん?、ん?。
と、不思議がっていた回でしたが、そういう事情があったのかと納得です。
ちなみに、食べ合わせが良くなく、一緒に食べると副作用がおきると言われているものの中で、人参と食べ合わせが悪いのは、藜芦(りろ)と五霊脂(ごれいし)です。
藜芦は、ユリ科バイケイソ属植物Veratrum nigrum L.やその亜種、変種などの根をつけた根茎
五霊脂は、ムササビ科の動物Trogopterus xanthipes MILNE. EDWARDS.、Pteromys volans L.などの糞です。