三焦弁証
三焦弁証は、清代呉鞠通が「温病条弁で提示した温病の弁証方法であり、尊崇する葉天士の衛気営血弁証を含みこんで、『上焦に始まり、下焦に終わる』という上から下への伝変を重視した新たな観点に立っている。
上焦の手太陰肺の病証は衛分証に、中焦の手陽明胃の病証は気分証に、下焦の足厥陰肝、足少陰腎の病証は営血分証に、それぞれほぼ相当してはいるが、三焦弁証では臓腑や病邪との関連がより詳細に分析されている。
病証 | 病機 | 症候 | ||
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上焦証 | 邪が口鼻から侵入して手太陰肺経と肺衛を犯す。肺と心包は同じく上焦にあり、近接しているので、葉天士が「温邪は上に受け、首先に肺を侵し、心包に逆伝す」と述べているように、対応が遅れたり治療を誤ると逆伝心包が発生することもある。 | |||
1 | 風熱犯肺 | 衛分証に同じ。衛気営血弁証参照。 | ||
2 | 暑邪犯衛 | 暑邪が肺を侵犯し宣降が失調した状態であり、熱熾傷津が特徴。 | 発熱、微悪寒、汗が出る、口渇、咳嗽、尿が濃い。 | |
3 | 温燥 | 秋季に燥熱の邪が肺を侵襲した病態。臓腑弁証の燥邪犯肺参照。 | ||
4 | 逆伝心包 | 衛分証に引き続き意識障害を呈する病証。衛気営血弁証の心包証参照。 | ||
5 | 邪熱阻肺 | 衛気営血弁証の気分証、邪熱阻肺と同じ。 | ||
中焦証 | 邪が手足陽明と足太陰脾を侵犯した病証。陽明では燥熱が、太陰では湿熱が、それぞれ病変の主体になる。 | |||
1 | 胃経熱盛 | 衛気営血弁証の気分大熱と同じ。 | ||
2 | 腸道熱結 | 衛気営血弁証の熱結腸胃と同じ。 | ||
3 | 湿温 | 長夏初秋に湿熱の邪によって発病し、邪が主として中焦脾胃に留滞して上・下焦にびまんする病変。 | ||
a | 邪遏衛気 | 湿重熱軽で、湿邪が衛気を瘀阻するとともに中焦気機を阻滞した病証。 | 悪寒、発熱、身熱不揚、頭痛、悪心、嘔吐、肢体が重だるい、胸腹部の痞え。 | |
b | 湿因中焦 | 湿重熱軽で、湿濁が中焦を因阻し昇降失調をきたした状態。 | 身熱不揚、腹満、痞え、悪心、嘔吐、下痢、尿量が少ない。 | |
c | 湿熱鬱蒸 | 中焦湿熱が鬱蒸して肌表に外達し、白[疒立口]が発生する病態。 | 発熱、熱感、身体痛、汗は出るが解熱しない、胸腹部の白[疒立口]・胸腹が痞える、悪心、泥状便。 | |
d | 湿熱中阻 | 湿熱併重で、中焦脾胃の昇降失調を引き起こした病証。 | 発熱、熱感、汗が出るが解熱しない、口渇、水分はあまり飲まない、胸腹の痞え、悪心、嘔吐、泥状便、尿が濃く少量。 | |
e | 湿熱黄疸 | 湿熱の邪が三焦を阻滞し、熱の外散と質の下降を阻むために、邪熱の外出路がなくなって積熱が増大し、胆の疏泄を失調させ胆汁が外溢した病態。 | 発熱、熱感、全身の鮮明な黄疸、頭汗、口渇、尿が濃く少量。 | |
下焦証 | 邪が足厥陰肝と足少陰腎に入り、精血、真陰を損耗した病証で、末期状態。 | |||
1 | 熱灼真陰 | 衛気営血弁証の血分証、熱灼真陰と同じ。 | ||
2 | 虚風内動 | 邪熱が精血、真陰を灼消し、肝の陰血が枯竭したために筋脈を濡養できず風動を生じた状態。 | るい痩、皮膚の乾燥、手足の(むし需)動、ひきつり・痙攣、激しい動悸。 |