六経弁証
六経弁証は、漢代の張仲景が「傷寒論」で提示した弁証方法で、外感熱病の経過に見られる各種の症候を分析し、経絡、臓腑、気血および八綱と結びつけた上で、
太陽病、少陽病、陽明病、太陰病、厥陰病、少陰病という六つの病症に分類し、
病変部位、病変の性質、邪正の盛衰、病勢の趨向、伝変および治療方法を示している。
六経弁証は、寒邪襲表、化熱入裏を主に分析しており、
太陽病は表証、少陽病は半表半裏証、陽明病は裏証であり、
三陰病はすべて裏証である。
邪正の関係では、三陽病は正盛邪実が主体で実証、熱証が多く、三陰病は正虚が主体で寒証、裏証が多い。一般に、三陽病は太陽病から始まり、直接にあるいは少陽病を経過して陽明病へと伝変する。正気が虚弱であれば、さらに三陰病へと伝変したり、開始から邪が直接三陰に侵入することもある。三陰病は、太陰病から始まり、厥陰、少陰へと伝変することが多い。
病証 | 病機 | 症候 | ||
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太陽病 | 風寒の邪が外表から三陽の表である足太陽膀胱あるいは手太陽小腸を侵犯して発生する病変 | |||
1 | 表証 | 足太陽の経脈は頭項背部を順行し、人体の表位、陽位に布行しており「一身の皮を主る」ともいわれる。太陽病では表証が最も特徴的である。 | ||
a | 太陽傷寒証(表寒、表実) | 感受した風寒の邪のうち寒邪が偏盛であり、凝斂の寒邪が衛表を緊束し経脈を凝滞させている状態。 | 悪寒、発熱、頭痛、身体痛、無汗。 | |
b | 太陽中風証(表寒、表虚) | 感受した風寒の邪のうち風邪が偏盛であり、軽揚開泄の風邪が衛陽を開疏し営陰を外泄している状態。 | 悪風、発熱、頭痛、自汗、鼻鳴。 | |
2 | 腑証 | 表邪が経脈を通じて手足の腑に入った病態。 | ||
a | 蓄水証 | 太陽の表邪が経脈を通じて足太陽の腑である膀胱に侵入し、膀胱の気化を阻滞するとともに三焦気化にも影響を及ぼした状態。 | 発熱、口渇、多飲、飲むとすぐに吐く、尿量減少。 | |
b | 蓄血証 | 太陽表邪が経脈を通じて手太陽の腑である小腸に内舎し、化熱して血と結びつき瘀熱を形成した状態。 | 発熱、下腹部の硬満、排尿は正常、狂躁状態。 | |
少陽病 | 邪が三陽の半表半裏である足少陽胆、手少陽三焦を侵襲した病変である。外邪が直接少陽に侵入するか、太陽病から少陽へと伝入する。 | |||
1 | 少陽半表半裏証 | 風寒の邪が少陽半表半裏に入り、三焦の気機と水液の流行を阻滞したり、胆の気機を鬱阻して胆火を生じた病態。 | 往来寒熱或いは微熱、胸脇部が脹って苦しい、食欲不振、いらいら、悪心、嘔吐、口渇、腹痛、動悸、尿量が少ない、咳嗽、咽痛、目眩、口が苦い。 | |
2 | 兼証 | 少陽半表半裏証に他証が付随したり、病機伝変の趨勢が他経へ向かいかけている病態。 | 表証の微悪寒、関節痛など、陽明熱盛の日晡潮熱など、心下熱結の心窩部の痞え、嘔吐、下痢あるいは便秘など、邪熱上擾心神の煩驚、うわごと。 | |
陽明病 | 邪が三陽の裏である足陽明胃、手陽明大腸を侵襲した病変。邪が陽明に直接侵入するか、太陽病、少陽病から陽明へと伝入する。 | |||
1 | 陽明熱盛(経証) | 無形の邪熱が陽明に散慢した状態で、邪熱が津液を灼消するとともに汗として外迫するために、傷津を伴っている。 | 悪熱、高熱、汗が出る、口渇、多飲、元気がない。 | |
2 | 陽明熱結(陽明腑実) | 邪熱が熾盛で化燥するとともに胃腸の糟粕と結びついて燥屎を形成し、停積するために、燥屎が腑気を阻滞し邪熱が心神を上擾する状態。 | 高熱、悪熱、日晡潮熱、意識障害、うわごと、腹満、拒按、便秘。 | |
太陰病 | 邪が三陰の表である足太陰脾に侵入した病証。一般に、三陽病の誤治などで脾陽を損傷したり、脾胃が元来虚弱なために寒邪が直中することによって発生する。 | |||
1 | 寒傷脾陽 | 寒邪が太陰脾陽を損傷して昇清と運化が阻害され、寒湿が内生して気機を阻滞している状態。 | 腹満、時に腹痛、温めると気持ちがよい、悪心、嘔吐、食欲不振、泥状から水様便、口渇がない。 | |
2 | 脾虚肝乗 | 太陽病に誤って下法を用いたために脾が虚し、肝気が脾虚に乗じて横逆して脾の気機を阻滞した状態。 | 腹満、絞約性の腹痛。 | |
厥陰病 | 邪が三陰の半表半裏である足厥陰肝、手厥陰心包に侵入し、気機を阻滞して君火、相火の陽熱が布達するのを妨げ、寒熱の錯雑や厥を引き起こした病態。 | |||
1 | 上熱下寒 | 邪が厥陰に侵入して気機を阻滞したために、心包の陽熱が下達できなくなり、上部では陽熱が雍遏されて熱証が生じ、下部では温煦が不足して寒証があらわれる。 | 胸中の熱感、強い口渇、飢餓感などの上熱と、食欲不振、腹や下肢の冷え。 | |
2 | 厥熱往復 | 厥陰に侵入した寒邪が気機を凝閉して疏泄が不能になり、陽熱が内閉されるために厥冷(冷え)が生じ、内閉された陽熱が蓄積して一定の力を備え凝閉を衛開して外達すると発熱、熱感がみられ、熱が外散するとまた厥に戻り、厥と熱が往復する。 | 四肢の冷え、寒けなどと発熱、熱感、咽痛などが数日の感覚をおいて繰り返す。 | |
3 | 厥 | 邪が厥陰に入って気機を阻滞するために、陽熱が布達できないで厥冷を呈する状態。 | ||
a | 寒厥 | 寒邪が厥陰の気機を阻滞してまず厥熱往復を呈し、邪正相争にともない陽気が次第に衰少して厥多熱少になり、ついには陽衰になって少陰に転入しかけている状態。少陰陽衰とほぼ同じ病機。 | 寒け、冷え、元気がない。腹痛、不消化下痢、筋肉のひきつり。 | |
b | 寒滞肝脈 | 寒邪が血虚に乗じて厥陰肝経を凝滞させた状態。 | 手足の冷え、大腿内側から下腹両側の冷え痛み、陰のうや外陰部の収縮。 | |
c | 熱厥 | 風寒の邪が化熱入裏して厥陰の気機を雍遏したため、心包の陽熱が外達できなくなって四肢末端が温煦されない状態。 | 四肢末端の冷えとともに、発熱、胸腹の熱感、口渇。 | |
少陰病 | 邪が三陰の裏である足少陰腎、手少陰心に侵入した生死存亡の最終段階。他経からの伝変あるいは寒邪の直中によって発生する。 | |||
1 | 少陰寒化証 | 邪が少陰の陽気を虚衰させ、温煦ができなくなった状態。 | 元気がない、うとうとする、寒がる、冷える、踡臥する、不消化下痢、尿量が多い。 | |
2 | 少陰熱化証 | 風寒が化熱して少陰に伝入するか、少陰の伏邪が外発し、邪熱が心火を上炎させ腎陰を灼消し、水不済火となった状態。 | 発熱、焦躁、不眠、口や咽の乾燥。 |