神農本草経は
中国最古の本草 (生薬) の書である神農本草経は、現代でもバイブル的存在です。神農本草経の原書は散逸して久しく、今日伝わるテキストはみな後世の輯本です。従って、どの神農本草経が正しいのかはわかりません。
現代人にはわかりやすい『意釈神農本草経 浜田 善利、曽戸 丈夫著』の順に記載し、本草の説明部分は、『神農本草経 森立之輯、松本一男編、新刻校補』から、対応させました。本草の名前も異なっていたり、漢字も違っていたりしていますが、同じものだと解釈して当てはめています。
中国語の部分は、友人が中国で購入した『神農本草経・学苑出版社』を元にしています。
本草経序録
上薬一百二十種為君、主養命以応天、無毒、多服、久服不傷人、欲軽身益気、不老延年者、本上経。
中薬一百二十種為臣、主養性以応人、無毒有毒、斟酌其宜、欲遏病補虚羸者、本中経。
下薬一百二十五種為佐使、主治病以応地、多毒、不可久服、欲除寒熱邪気、破積聚、癒疾者、本下経。
- 上薬は120種、君と為す。
- 命を養うを主どり、以て天に応ず。無毒。多く服し、久しく服するも、人を傷れず。身を軽くし、気を益し、老いず、年を延べんと欲する者、上経に本づく。
- 中薬は120種、臣と為す。
- 性を養うを主どり、以て人に応ず。無毒・有毒、其の宜しきを斟酌す。病を遏め、虚羸を補わんと欲する者、中経に本づく。
- 下薬は125種、佐使と為す。
- 病を治するを主どり、以て地に応ず。毒多し。久しく服すべからず。寒熱・邪気を除き、積聚を破って疾を癒やさんと欲する者、下経に本づく。
- 薬に君・臣・佐使有り、以て相宣摂す。
- 合和するには、宜しく君を一、臣を二、佐を五に用うべし。又、君を一、臣を三、佐を九にすべし。
『意釈神農本草経』と森立之輯本では、この上薬、中薬、下薬の分類は相違していますし、『意釈神農本草経』では、この順番を押しつけるものではない、と記述されています。上薬は上品ともいいますが、毎日摂取しても副作用がなく毒性がないもの、中品は副作用があるものも中にはあるという分類、下品は注意しないと副作用を起こすかもしれないもので、長く続けない方がよいものです。
三品合三百六十五種、法三百六十五度。一度応一日、以成一歳、倍其数合七百三十名也。
薬有薬物一百二種作君薬、有君臣佐使、以相宜摂合和、宜一君、二臣、三佐、五使、又可一君三臣九佐使也。
薬有陰陽配合、子母兄弟、根茎花実、草石骨肉。
有単行者:有相須者:有相使者:有相畏者:有相悪者:有相反者:有相殺者。凡此七情、合和視之、当用相須、相使者良、勿用相悪相反者。若有毒宜制、可用相畏相殺者、不尓勿合用也。
薬有酸、鹹、甘、苦、辛五味、又有寒、熱、温、凉四気及有毒無毒、陽干暴干、采造時月生熟、土地所出、真偽陳新、併各有法。
薬性有宜丸者、宜散者、宜水煮者、宜酒漬者、宜膏煎者、亦有一物兼宜者、亦有不可入湯酒者、併随薬性不得違越。
欲遼病、先察其源、先候病機、五臓未虚、六腑未竭、血脈未乱、精神未散、服薬必活、若病已成、可得半愈、病勢已過、命将難全。
若用毒薬療病、先起如黍粟、病去即止、若不去倍之、不去十之、取去為度。
療寒以熱薬、療熱以寒薬、飲食不消以吐下薬、鬼[疒主]、蠱毒以毒薬、癰腫瘡瘤以瘡薬、風湿以風湿薬。各随其所宜。
病在胸膈以上者、先食後服薬、病在以腹以下者、先服薬而後食、病在四肢、血脈者、宜空腹而在旦、病在骨髄者、宜飽満而在夜。
夫大病之主、有中風、傷寒、寒熱、温瘧、中悪、霍乱、大腹水腫、腸澼、下痢、大小便不通、奔豚、上気、咳逆、嘔吐、黄疸、消渇、留飲、癖食、堅積癥瘕驚邪、癲癇、、鬼[疒主]、喉痺、歯痛、耳聾、目盲、金瘡、[足委]折、癰腫、悪瘡、痔、萎、癭瘤、男子五労七傷、虚乏羸痩、女子帯下、崩中、血閉、陰蝕、虫蛇蠱毒所傷。此大略宗兆、其間変動枝葉、各宜依端緒以取之。
注)
中悪:『諸病源候論』中悪者、是人精神衰弱、為鬼神之気卒中之也。
腸澼:澼、腸間水。腸澼、則腹瀉。
驚:『諸病源候論』小児驚者、由血気不和、実熱在内、心神不定、所以発驚、其者[制手]縮変成病。
[足委]折:[足委]、専指足骨折:汎指骨折、扭傷。
陰蝕:指婦女下陰潰瘍。