手の陽明大腸経
Points of Large Intestine Meridian of Hand-Yangming, LI20
大指次指(次指の大指側)の端に起こり、指の上廉を循り、合谷両骨の間(第一と第二掌骨の間、合谷)に出で、上りて両筋の中に入り、臂の上廉を循り、肘の外廉に入り、臑の外前廉を上り、肩に上り、髃骨(肩甲骨と鎖骨とが連結しているところ、肩髃)の前廉に出で、上りて柱骨の会上(肩甲骨の上で、頸骨の隆起しているところ、つまり大椎)に出で、下りて缺盆に入りて肺を絡い、膈を下りて大腸に属す。
其の支れたる者は、缺盆より首に上りて頬を貫き、下歯の中に入り、還り出でて口を挟み、人中に交わり、左は右に之き、右は左に之き、上りて鼻孔を挟む。
手の陽明之別は、名づけて偏歴と曰う。腕を去ること三寸、別れて太陰に入る。其の別れたる者は、上りて臂を循り、肩髃に乗じ、曲頬に上りて歯に偏す。其の別れたる者は、耳に入り宗脈(耳や眼などの器官に分布しているものを指す。多くの経脈が集まって主脈あるいは大脈を成しているので宗という。)に合す。実するは則ち齲し聾す。虚するは則ち歯寒え、痺隔(膈間が閉塞して通じないことを形容)す。これを別るる所に取るなり。
『霊枢・経脈』参照
記号 | 経穴 | 位置 | 取穴 | 解剖 | 意味 | 主治 | 要穴 | 交会 |
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LI1 | 商陽(しょうよう) 絶陽 |
在手大指次指内側、去爪甲如韮葉(甲乙) | 食指の橈側で爪甲を去ること1分に取る。 | 示指伸筋腱、手背動脈網、正中神経 | 商は五音の金に属す。大腸経と肺経は表裏にある。経気は金陰に属す肺経の少商から金陽に属す大腸経の商陽にめぐる。 | 咽喉腫痛、下顎部腫脹、下歯痛、難聴、耳鳴、視神経萎縮、熱病汗不出、卒倒、中風昏迷、喘咳、肩痛引缺盆 配少商、合谷治咽喉腫痛 清肺利咽、開竅瀉熱 |
井金穴 | |
LI2 | 二間(じかん) 間谷 |
在手大指次指本節前内側陥者中(甲乙) | わずかに拳を握り第2中手指節関節の前縁橈側、表裏の肌目に取る。 | 深・浅指屈筋腱 | 間は間隙。本穴は手の第二指指節関節の前陥凹で、本経の二番めの穴位。 | 喉痺、下顎腫痛、目痛、目黄、鼻血、膿血便、歯痛口乾、顔面神経麻痺、身熱、嗜睡、肩背痛振寒 配三間治多臥喜睡 清肺利咽、消腫止痛 |
栄水穴 | |
LI3 | 三間(さんかん) 少谷 |
在手大指次指本節後内側陥者中(甲乙) | わずかに拳を握り食指の橈側、第2中手指節関節の後、第2中手骨骨頭の上の方に取る。 | 第一背側骨間筋 | 間は間隙。本穴は手の第二指指節関節の後陥凹で、本経の三番めの穴位。 | 目痛、歯痛、咽喉腫痛、手指及手背腫痛、鼻血、口唇口乾、嗜眠、腹満、腸鳴下痢 配大迎、正営治歯痛 瀉熱止痛 |
兪木穴 | |
LI4 | 合谷(ごうこく)、 虎口 |
在手大指、次指間(甲乙) | 第1・第2中手骨の間、ほぼ第2中手骨の中央橈側に取る。 簡便法は片方の手の母指の中節末節関節の甲の横紋をもう一方の母指と食指の間の外縁に当て片方の手の母指の尖端に取る。(注1) |
第一背側骨間筋中 | 合は合わせる、谷は山谷。本穴は第一、第二母中手骨の間にあり、二骨は深い谷のように見える。 | 顔面部一切の疾病、胃腸疾患、頭痛、眩暈、目赤は痛、鼻血、鼻炎、歯痛、難聴、面腫、咽喉腫痛、声がれ、牙関緊閉、顔面神経麻痺、風疹、指痙攣、臂痛、半身不随、発熱悪寒、無汗、多汗、咳嗽、閉経、難産、胃痛、腹痛、便秘、痢疾、小児のひきつけ、皮膚過敏、疥癬、寒熱往来 配太衝、大椎、風池、足三里治中暑、配偏歴、三陽絡、耳門治歯痛 ※1 疏風清熱、通経活絡 |
原穴・四総穴 | |
LI5 | 陽谿(ようけい) 中魁 |
在腕中上側両旁間陥者中(甲乙) | 腕関節背面橈側、母指を拡げたとき、短母指伸筋腱と長母指伸筋腱の間の陥凹中に取る。 | 短母指伸筋腱と長母指伸筋腱の間 | 手背は陽で、本穴は陥凹を呈し、山間の渓に似ている。 | 頭痛、難聴、耳鳴、咽喉腫痛、虫歯痛、目赤、目翳、熱病心煩、臂腕痛、精神疾患 配陽池、陽谷治腕関節炎、配陽谷治目赤痛 清熱散風 |
経火穴 | |
LI6 | 偏歴(へんれき) | 在腕後三寸(甲乙) | 腕関節の側面、肘を屈し陽谿と曲池の連線上、陽谿の上3寸に取る。 | 長短橈側手根伸筋腱と長母指外転筋の間 | 偏は斜め、歴は経が行くこと。大腸経は本穴から絡脈を出し肺経に行く。 | 鼻血、目赤、難聴、耳鳴、顔面神経麻痺、喉痛、癲癇、水腫、肩膊肘腕痠痛 配手三里、内関治前腕神経痛 清熱利湿 |
絡穴 | |
LI7 | 温溜(おんる) 逆注、 蛇頭、 池頭 |
在腕後、少士五寸、大士六寸(甲乙) | 腕関節の側面、肘を屈し陽谿と曲池の連線上、陽谿の上5寸に取る。 | 長短橈側手根伸筋腱と長母指外転筋の間 | 温は温熱、溜は留と同じで停留するの意味。本穴は温経散寒の作用がある。 | 頭痛、面腫、鼻血、口舌腫痛、咽喉腫痛、肩背痠痛、腸鳴腹痛、癲癇、精神病、吐舌 調理胃腸 |
郄穴 | |
LI8 | 下廉(げれん) | 在輔骨下、去上廉一寸(甲乙) | 腕の側面、肘を屈し陽谿と曲池の連線上、曲池の下4寸に取る。 | 短橈側手根伸筋、長橈側手根伸筋 | 廉は丘陵とか菱形の角をいう。本穴は前腕橈側にあり、上廉の下にある。 | 小腸病、頭痛が移動するもの、眩暈、目痛、肘臂痛、腹痛、消化不良、乳痛 通経活絡、通調腸腑 |
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LI9 | 上廉(じょうれん) | 在三里下一寸(甲乙) | 腕の側面、肘を屈し陽谿と曲池の連線上、曲池の下3寸に取る。 | 長・短橈側手根伸筋 | 廉は丘陵とか菱形の角をいう。本穴は前腕橈側二あり、下廉の上方にある。 | 大腸病、頭痛、半身不随、上肢帯のだるさと麻痺、腹痛、腸鳴、泄瀉 通経活絡、通調腸腑 |
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LI10 | 手三里(てさんり) | 在曲池下二寸(甲乙) | 腕の側面、肘を屈し陽谿と曲池の連線上、曲池の下2寸に取る。 | 長・短橈側手根伸筋 | 里は寸ともいう。肘髎より3寸なので手三里という。 | 胃病、腹脹、吐瀉、歯痛、声がれ、頬腫、頚部リンパ結核、半身不随、手臂麻痛、肘攣不伸、眼科疾患 腰痛不得臥 風通絡、清利頭目 |
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LI11 | 曲池(きょくち) 鬼臣、 陽沢 |
在肘外、輔骨中骨之中...以手按胸取之(甲乙) | 肘を屈し、肘窩横紋橈側端陥凹部に取る。 尺沢と上腕骨外側上顆の連線上の中点に取る。(注2) | 腕橈骨筋の橈側で長橈側手根伸筋の起始部 | 曲は肘を屈曲させる、池は水池のこと。取穴時、屈曲させた肘の横紋の陥凹が浅い池のようにみえる。手陽明の合穴で、脈気は肘に流れ水が注ぐ池の中のようである。 | 一切の皮膚病、一切の熱病、咽喉腫痛、手臂腫痛、上肢不随、手肘無力、月経不順、頚部リンパ結核、瘡、疥、丹毒、腹痛吐瀉、痢疾、歯痛、目赤痛、視力低下、高血圧、胸中煩満、小児のひきつけ、鬱病、寒熱往来、肩周炎 配合谷治頭面耳目口鼻病、配人迎、足三里治高血圧、配合谷、血海治蕁麻疹 ※1 散風清熱、調和営衛、通絡止痛 |
合土穴 | |
LI12 | 肘髎(ちゅうりょう) | 在肘大骨外廉陥者中(甲乙) | 肘を屈し、曲池の外上方1寸、上腕骨辺縁に取る。 | 腕橈骨筋の起始部 | 肘は肘部、髎は孔。本穴は肘の上の上腕骨陥凹にある。 | 肘臂痛、拘攣、麻木、嗜臥 通経活絡、宣痺止痛 |
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LI13 | 手五里(てごり) | 在肘上三寸、行向里大脈中央(甲乙) | 曲池と肩髃の連線上で曲池の上3寸に取る。 | 腕橈骨筋の起始部、上腕三頭筋前縁 | 里は寸のこと。本穴は天府の下5寸にある。 | 肘臂攣急、疼痛、頚部リンパ結核、咳嗽吐血、嗜臥身黄、寒熱往来 配天井、下廉治上肢痛 活絡止痛、理気散結 |
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LI14 | 臂臑(ひじゅ) 頭衝、 頸衝 |
肘上七寸胭肉端(甲乙) | 曲池と肩髃の連線上で曲池の上7寸に取る。腕を垂らし肘を曲げて上腕骨の外側で三角筋下端に取る。(注3) | 上腕骨の橈側、三角筋の下端 | 臂は上腕を、臑は上腕内側をいう。本穴は上腕内側にある。 | 頚部リンパ結核、頸項拘急、肩臂疼痛、目疾 痛経止痛、明目散結 |
手陽明絡、陽維之会 | |
LI15 | 肩髃(けんぐう) 中肩井、 肩偏、 肩骨 |
在肩端両骨間(甲乙) | 肩峰前下方で肩峰と上腕骨大結節の間に取る。上腕を水平に挙げ肩関節部に出現する二個の陥凹のうち、前の陥凹が肩髃。 | 三角筋の上部中央で肩峰と上腕骨大結節の間 | 髃は肩甲骨肩峰部のこと。本穴は肩峰と上腕骨大結節の間にある。 | 肩臂疼痛、手臂攣急、肩中熱、半身不随、過敏性皮膚炎、頚部リンパ結核 配陽谿治蕁麻疹、配条口、承山治肩周炎 配曲池、列缺、尺沢、支溝、中渚治上腕無力 疏風散熱、通経活絡 |
手陽明、陽蹻脈之会 | |
LI16 | 巨骨(ここつ) | 在肩端上行両叉骨間陥者者中(甲乙) | 肩の外上方で鎖骨肩峰端と肩甲棘の間、陥凹部に取る。 | 僧帽筋、棘上筋、鎖骨肩峰端と肩甲棘の間 | 巨骨は缺盆骨すなわち鎖骨のこと。本穴は鎖骨肩峰端と肩甲棘の間の陥凹にある。 | 肩背・手臂疼痛、屈曲障害、頚部リンパ結核、甲状腺腫、癲癇で吐血 通経活絡、止痛 |
手陽明、陽蹻脈之会 | |
LI17 | 天鼎(てんてい) | 在缺盆上、直扶突、気舎後一寸五分(甲乙) | まっすぐに椅子に座り、やや顔を上げ、扶突直下1寸、胸鎖乳突筋後縁に当たるところに取る。(注4) | 深層は広頸筋、胸鎖乳突筋の後縁、深層は中斜角筋の起始部 | 上部を天といい、鼎は古代銅器で、3本足である。本穴と缺盆、気舎は三角形をなす。 | 咽喉腫痛、急な声がれ、呼吸困難、甲状腺腫、頚部リンパ結核 清咽利喉、理気化痰 |
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LI18 | 扶突(ふとつ) 水穴 |
在人迎後一寸五分(甲乙) | まっすぐに椅子に座り、やや顔を仰向けにする。 頚部の側面で喉頭隆起の傍ら3寸、胸鎖乳突筋の胸骨頭と鎖骨頭の間に取る。 | 広頸筋、胸鎖乳突筋、深層は中斜角筋の起始部 | 扶は扶持、支え合う、突は高いところで喉ぼとけを指す。本穴は胸鎖乳突筋の胸骨頭と鎖骨頭が出会うところで二人の人が支え合っているように見える。 | 咳嗽、気喘、咽喉腫痛、急な声がれ、甲状腺腫、頚部リンパ結核 清肺利咽、理気化痰 |
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LI19 | 禾髎(かりょう) 長頻 |
在直鼻孔下、侠水溝傍五分(甲乙) | 鼻孔外縁直下、水溝に水平に取る。 | 上唇挙筋の止端 | 禾は糧(かて)、髎は孔。口は穀物を納める関門であり、本穴は口の上際にある。 | 鼻ポリープ、鼻血、鼻づまり、鼻流清涕、口噤不開 袪風開竅、通経活絡、清熱止血 |
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LI20 | 迎香(げいこう) 衝陽 |
在禾髎上、鼻下孔傍(甲乙) | 鼻翼外縁中点傍ら、鼻唇溝中に取る。 | 上唇挙筋 | 鼻の通りをよくし、鼻詰まりや嗅覚異常に効くことから。嗅覚の要衝で鼻の疾患の要穴。 | 鼻づまり、不聞香臭、鼻血、鼻炎、顔面神経麻痺、面痒、顔面浮腫、鼻ポリープ 配四白、地倉、陽白治顔面神経麻痺、配上星、五処、禾髎治鼻づまり 風清熱、通利鼻竅 |
手陽明・足陽明之会 |
「経穴概論」教科書小委員会著では
(注1)合谷(LI4):第1中手骨と第2中手骨骨底の前の陥凹部、第2中手骨よりに取る。
(注2)曲池(LI11):肘を曲げ横紋の外端、上腕骨外側上顆と橈骨頭の間に取る。
(注3)臂臑(LI14):肩髃の下3寸に取る。
(注4)天鼎(LI17):扶突の下1寸、胸鎖乳突筋後縁に取る。
穴名 | 共同性 | 特殊性 |
風門 | 解表 | 袪風解表宣肺 |
大椎 | 解表退熱、治項背之表邪 | |
合谷 | 袪風疏衛清熱解表、宣肺、清肺 | |
曲池 | 袪風解表、瀉大腸之熱 | |
外関 | 清熱解表、兼清上焦之熱 | |
列缺 | 疏衛解表、宣肺、止咳、平喘 | |
風池 | 頭面部の風熱表邪 |