中薬概念
種類 | 解説 | |
解表薬 | 表邪を発散させて、表証を取る効能を持つ薬を解表薬と呼ぶ。 解表薬はだいたい辛味を持ち、発散の性質を持って、肌表にある外邪を発散させ、あるいは汗を出させてから治す。 表証には風寒と風熱のような両種類の病証があるので、辛温解表薬と辛涼解表薬2種類に分ける。 外感風寒あるいは畏寒風熱による悪寒、発熱、頭痛、身体の疼痛、無汗(あるいは有汗)、脈浮などの症状がある患者に主に使う。 一部分の解表薬は水腫、咳、喘息、皮疹不暢のときにも使われる。 その辛散袪邪作用で宣肺と透疹をさせる。 ある解表薬は湿邪を袪散し、疼痛を緩和する作用があるから、風湿による身体の疼痛にも使われる。 解表薬を使うときには、外感風寒と外感風熱の違いによって、別々に発散風寒と解風熱の薬を選ばなければならない。 そのほか、正気が弱い患者に対して、症状によって助陽、益気、養陰などの扶正薬といっしょに併用する必要がある。 それで正気を保って袪邪にきく、辛涼解表薬は温病の初期に使う場合、適当な清熱解毒薬といっしょに併用することが必要である。 発汗の性能が強い解表薬を使う場合には、汗が多く出すぎないように注意しなければならず、陽気と津液を損耗することを避ける。 多汗の患者および熱病末期に津液損耗がある患者に対して、解表薬を使うことは禁忌である。 長い期間患っている淋病、出血の患者に対して、外感表証があるときは、やはり慎重に使用しなければならい。 |
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辛温解表薬 | 辛温解表薬は、だいたい性味が辛温に属するために、発散風寒を主な作用とする。 外感風寒、悪寒、発熱、無汗、頭痛、身体の疼痛、舌苔藻白、脈浮緊などの風寒表実証に適用する。 部分の薬は風寒表証がある咳、喘息、水腫、おでき、関節炎、痺証にも使われる。 辛温解表薬は強い発汗作用があるから、体が弱い患者に対して慎重に使用しなければならない。 |
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辛涼解表薬 | 辛涼解表薬は、味が辛、性が凉、発散作用は辛温解表薬より緩和である。 宣散風熱を主作用とする。 外感風熱による発熱、微悪風寒、咽乾き、口乾、舌苔薄黄、脈浮数などの証候に用いる。 部分の薬物に清頭目、利咽喉、宣肺止咳、散邪透疹の作用がある。 それで、風熱による目の病気、咽頭腫痛、疹出不透、咳などに用いられて、常に清熱、解毒薬物を配合する。 |
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清熱薬 | 清泄裏熱に主な効能がある薬物は、清熱薬と呼ばれる。 清熱薬は性が寒凉に属され、清熱瀉火、解毒、凉血、清虚熱などの効能を持つ、主に熱病高熱、熱痢、癰腫毒および陰虚内熱によるいろいろな虚熱証候に用いる。 発病の原因、病状の段階などによって、裏熱は種々の型の臨床症候を表すので、病因と病状の違いに応じて、異なった種類の清熱薬を使用する必要がある。 清熱瀉火薬:主として気分証の実熱をさます。 清熱燥湿薬:主として湿熱、実熱証に用いる。 清熱凉血薬:主として血分の実熱をさます。 清熱解毒薬:主として熱毒による斑発疹、下痢、化膿証炎症に使用する。 清虚熱薬:清虚熱、退骨蒸、午後潮熱、低熱が止まらない証に用いる。 清熱薬を使用するときには、その熱象が気分の熱か血分の熱か、虚熱か実熱かをはっきりと診断して的確に投薬すべきである。 もし表証があれば、まず解表あるいは表裏同治をして気分熱と血分熱が同時に現れる場合、気血両清が必要である。 清熱薬は性が寒凉に属し、脾胃を損傷しやすいため、脾胃虚弱の患者には、健胃の薬物を配合する。 熱邪は津液を損傷しやすいうえ、清熱燥湿薬は性質が燥のために、津液を損傷しやすい。 それで陰虚の患者に対して、養陰の薬を配合する必要がある。 脾胃虚寒、食欲がない、下痢しやすい人に慎重に使う。 陰盛格陽、真寒仮熱のような仮象に対して、明らかに弁別しなければならない。 軽率に使うべきではない。 清熱薬の多くは苦寒の性質があるから、長期間あるいは大量に服用すると身体に悪影響があらわれる。 それゆえ「熱象」がなくなれば使用を中止すべきである。 |
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清熱瀉火薬 | 熱と火はすべて六淫の一つである。 発熱心煩、汗出、口渇、はなはだしければ意識不明、譫言、発狂など熱盛の証候を特徴とする。 熱は火の始まり、火は熱の極であり、両者はただ程度が異なる。 それで清熱ができる薬物はだいたい瀉火もできる。 清熱瀉火の薬物は以下のような熱証に対して効果がある。 温病による高熱、汗出、煩渇、譫言、発狂、尿少、尿赤、舌苔黄燥、脈象洪実などの証候。 肺熱、胃熱、心熱、暑熱などによる多種実熱証をも含む。 清熱瀉火薬を使う場合に扶正の薬物を適当に配合し、また薬の効能部位の違いによって(清心熱、肺熱など)正確に選ぶ。 |
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清熱燥湿薬 | この主の薬物は性味が苦寒に属され、苦は燥湿ができ寒は清熱ができ、主に湿熱証を治す。 湿熱内蘊では、発熱、苔膩、尿短小などの証候がよくみられる。 たとえば腸胃湿熱による下痢、赤痢、痔(肝胆湿熱による脇肋脹痛、黄疸)、口苦(下焦湿熱による尿短小、排尿痛、こしけ)などの証候が現れる。 そのほかに関節腫痛、湿疹、癰腫、耳痛、膿が出るなどの証候はやはり湿熱と関係がある。 すべてこの主の薬物の応用範囲に属す。 味が苦寒であるから、胃を損傷させ、性は燥であるから陰を損傷させる。 それで清熱燥湿薬は一般に陰虚や脾胃虚弱には使用しないが、使用する必要があるときには補陰薬、補脾胃薬を配合すべきである。 |
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清熱凉血薬 | 清熱凉血薬の多くは、苦甘鹹寒のものである。 営分あるいは血分にある熱邪を清解する効能を持つ。 主に、血分実熱証に用いる。 温痛では熱入営血ならば、斑疹、各種出血(鼻衄、歯齦出血、吐血、便血など)および舌絳、煩躁、はなはだしいとき意識不明、譫言などの証候が表れる。 熱邪が営分に入れば、陰液を損なわせる。 この種の薬物である乾地黄、玄参などには清熱凉血の効能があるだけでなく、また養陰増液の効能がある。 それで血分実熱証でも使われて、熱病傷陰の場合でも使われる。 清熱凉血薬は一般的に熱が血分にある病証に適応する。 もし、気血両燔ならば、清熱瀉火薬を配合する。 |
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清熱解毒薬 | この種の薬物は主に清熱解毒の作用を持つ各種の熱毒病証に適用する。 たとえば、瘡瘍、丹毒、斑疹、咽喉腫痛、赤痢などである。 一部分の清熱解毒薬は、また毒蛇咬傷および癌に適用する。 臨床でこの種の薬物を応用するときに、熱毒証候による異なる表現によって、適当な薬物を選ぶ、もし熱毒邪気が血分にあれば、清熱凉血の薬を配合する。 もし湿を挟めば利湿薬、あるいは燥湿薬を配合する。 虚の人に対して、補益薬を配合し、正気を守る。 総合的にいえば証によって配合し、療効を高める。 |
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清虚熱薬 | 清虚熱薬は、主に陰虚による発熱、骨蒸潮熱、手と足のひらの熱、口燥咽乾、虚煩不寝、盗汗、舌紅少苔、脈細数などの証候に用いる。 また温熱病の後期にも適用する。 この種の薬物は常に乾地黄、麦門冬、玄参、鼈甲、亀板を配合し、標本兼治を行うことができる。 |
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瀉下薬 | 腸管を刺激して下痢をおこしたり、腸管を潤滑にして排便を促進するものは、瀉下薬と称する。 瀉下薬は、便通を促し、腸内の宿食、水飲および他の有毒物質を排除することができる。またあるものは体内に滞っている実熱を、瀉下することによって清除することもできる。 瀉下薬は、便秘、腸道積滞、実熱内結および水腫停飲などの裏実証に適用する。 その作用と臨床応用の違いによって、攻下薬、潤下薬、峻下逐水薬の3種に分けられる。 攻下作用としては、攻下薬、特に峻下逐水薬が猛烈で、潤下薬が穏やかで、腸管を潤滑するだけである。 瀉下薬を用いるには、次のことに注意を払うべきである。 1.外感表証を兼ねる裏実証には、まず解表し、後に攻裏すべきである。 必要とするときに攻下薬は解表薬とともに用いて、表裏がともに治って、表邪が体内に陥ることをまぬがれることができる。 2.正気不足を伴う裏実証には、補益薬と併用すべきである。 攻下は補益とともに施せば、攻下しても、正気を損傷しない。 3.瀉下作用が猛烈なものは、正気を傷つけやすいから、虚弱体質、妊娠中、産後、および月経期などには慎重に用いなければならない。 あるいは禁忌すべきである。 瀉下薬は、胃気を損傷しやすいから、治療効果をおさめると、すぐやめて、過服してはいけない。 |
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攻下薬 | 攻下薬の瀉下作用は割に強い。 苦寒性のものが多い。 一般に通便することもできれば、瀉下することもできる。 主に熱積の便秘に適用する。 常に瀉下清熱の作用を増強するために、行気、清熱薬を配合している。 ある薬は温裏薬を配合すると寒積の便秘にも用いることができる。 攻下薬の清熱瀉下作用は、また外感熱病による高熱、もうろう状態、譫言、精神錯乱、あるいは加熱の炎上による頭痛、目の充血、咽の痛み、歯齦の腫痛、吐血、鼻出血などには効果がある。 便秘の有無にかかわらず、すべてその苦寒の薬性を利用し、熱を下の方に導いて、実熱を清除することができる。 現在、中西結合で多種の急性腹症を治療するには、「六腑は通をもって用いる」、「通ぜざればすなわち痛む」という原理に基づいて、攻下薬を主として、清熱解毒、活血化瘀の薬物を配合して良い効果をおさめている。 |
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潤下薬 | 潤下薬の多くは植物の種あるいは種子の中の種仁で、含有している油脂により腸を潤滑し、大便を軟化し排出しやすくさせることができる。 高齢、虚弱体質、慢性病、産後などによる津液不足、陰虚および血虚の便秘に適している。 臨床には、違った病変によって、別の薬を配合すべきである。 たとえば、熱盛津傷による便秘には、清熱養陰薬を、血虚によるものには、補血薬を配合する。 気滞を兼ねると、行気薬を配合する方がよい。 潤下作用がある薬物は、火麻仁、郁李仁、瓜蔞仁、柏子仁、杏仁、桃仁、決明子、蜂蜜、当帰、何首烏などがある。 |
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峻下逐水薬 | この種の薬物はすべて毒性があって、瀉下作用も激烈で、激しい瀉下によって体内に停滞した水液を排除することができる。 あるものは利尿作用を兼ね備えているので水腫、胸水、腹水および痰飲による呼吸困難に適用している。 峻下逐水薬は作用が激しく、毒性もあるので、正気を損傷しやすい。 またその適応した水腫、腹水などの病証の多くは、病程がわりに長く、邪実正虚を呈している。 ゆえに正気を傷つけないように注意すべきで、それぞれ先攻後補、先補後攻、あるいは攻補併用などの方法を選んで、治療効果を治めると、すぐ停薬して、過服してはいけない。 また容量、用法、炮製、禁忌などに注意しなければならい。 |
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祛風湿薬 | 風湿を除去し、痺痛を止めることを主な作用とする薬物は、祛風湿薬と称する。 この種の薬物は、体表経絡、筋肉と関節の風湿を取り除くことができる。 その中には、それぞれの筋をのばし、絡を通じ、痛みを止める、および筋骨を強くするなどの作用がある薬物もある。 主に風湿による疼痛、筋肉の拘縮、麻痺、半身不随、腰がだるい、足に力がないなどの病証に適している。 祛風湿薬を使用するには、痺証性質、疼痛の部位などを参考にして適当な薬物を選び、かつ必要な配合を行うべきである。 たとえば病邪が体表に合って、あるいは上半身の疼痛が明らかであるときには、祛風解表薬を配合する。 また病邪が絡に入った血瘀気滞には活血通絡薬を、寒湿偏勝には温経薬、風湿が鬱して熱に化したのには清熱薬を、気血が不足すれば益気養血薬を、肝腎虚損による腰がだるい、足に力がないには肝腎を補う薬を配合すべきである。 痺証は多く慢性病に属し、薬物を酒剤あるいは丸散剤とすると便利である。 酒剤は祛風湿薬の作用を増強することもできる。 この種の薬物の一部分は辛温香燥で、陰血を損傷しやすいから、陰血虚の患者に慎重に使用すべきである。 |
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芳香化湿薬 | 湿邪を除去し、脾の運化をよくさせ、香りがある薬物は芳香化湿薬と称する。 脾は湿を嫌い、燥を好む。 湿濁が中焦を障害すれば、脾胃の運化は失調することになる。 芳香化湿薬は、辛香温燥で、気機を通暢し、湿濁を宣化し、脾胃を健運させる効能があるので、湿因脾胃、運化失調により起った上腹部の膨満、嘔吐、呑酸、泥素性便、水様便、食欲不振、体がだるい、口が甘い、よだれが多い、舌苔は白膩などの症候に適用している。 他は、湿温、暑湿などの病証にも用いられる。 湿は寒湿と湿熱の区別があるから、化湿薬を用いるときに、湿の性質によって配伍を行わねばならない。 たとえば、寒湿には温裏薬を、湿熱には清熱燥湿薬を配合する。 また湿の性質は停滞で、気機を阻滞しやすい。 行気すれば化湿を助けられるので、化湿薬を使用するときには、よく行気薬を配合する。 脾が弱くなると、内湿を生じるので、脾虚によるものには、補脾の薬物を配合すべきである。 この種の薬物は温燥に偏って、陰液を損傷しやすいので、効能を低めるので長時間煎じない方が良い。 |
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利水滲湿薬 | 利尿によって体内に貯留した水液を排出することができる薬物は利水滲湿薬と称する。 この種の薬物を服用した後、尿量が増加し、小便を通暢し、体内に溜まった水液を小便より除去することができる。 清熱利湿の作用を兼ねる薬物もある。主として、尿量減少、水腫、淋病(尿路系の感染症や結石など)、痰飲、湿温(腸チフス、日本脳炎など)、黄疸、湿瘡(湿疹、皮膚化膿症など)などの水湿と相関している病証に適用する。 この種の薬物の性味は、甘淡平あるいは微寒である。 淡は滲泄ができ、つまり利尿作用があって、習慣的に淡滲利湿薬と称する。 寒は清熱ができ、利水のほか、下焦の湿熱を除去することができ、下焦湿熱証に適して、習慣的に清熱利湿薬と称する。 よく淋病に用いるので、利尿通淋薬とも称する。 利水滲湿薬を使用するには、違った病証によって、適切な配合をはかるべきである。 たとえば水腫の初期、表証があるときには宣肺発汗薬を、脾腎陽虚証に表れた慢性水腫には温補脾腎薬を、湿が熱とともに盛んになったときに清熱瀉火薬を、熱が血絡を傷つけて尿血を起こしたときに凉血止血薬を配合すべきである。 利水滲湿薬は過用すると、陰液を損傷しやすいから、陰虚、津液不足の患者に慎重に使用すべきである。 |
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温裏薬 | 裏寒を温散し、裏寒証を治療することができる薬物は、温裏薬と称する。 温裏薬は性味が辛熱で、中焦を温め、脾胃を健やかに運化させ、寒をしりぞけ、痛みを止めるなどのことができる。 陽を助け、陽を回復する作用がある薬物もある。 温裏薬は裏寒証に適用している。 裏寒証は次の二つの情況を含んでいる。 一つは寒邪が体内に侵入して、脾胃の陽気が阻滞され、腹部の冷痛、嘔吐、下痢などを呈する。 もう一つは陽気が衰弱して、陰寒が盛んになって、悪寒、四肢の冷え、顔色が青白い、小便が稀薄で量だ多い、舌質が淡、舌苔が白、脈が沈細などがみられ、あるいは大汗亡陽により、四肢の冷え、脈が微で触れにくいなどの症状をきたす。 以上の証候に対して、どちらでも温裏薬を用いることができる。 これはすなわち内経の「寒であれば温める」という意味である。 温裏薬を使用する場合には、違った病状によって、他の薬物を配合すべきである。 たとえば、表証を兼ねると解表薬を、気滞証が生姜明らかになれば行気薬を、寒実が停滞すれば健脾化湿薬を、脾腎の陽気が虚すれば温補脾腎薬を、陽気が亡脱すれば大補元気薬を配合するなどのことである。 温裏薬の性味は、多くは辛温燥熱である。 臨床応用は適切でなければ、津液を消耗しやすい。 およそ熱証、陰虚証および妊娠中の婦人には禁忌で、あるいは慎重に用いなければならない。 |
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理気薬 | 気分の疾病を整え、気機を通暢させ、気をめぐらせる作用がある薬物を理気薬という。 理気薬の多くは性は温、味は辛、苦で、よく行散、あるいは泄降という働きを果たす。 調気健脾、行気止痛、順気降逆、疏肝解鬱、あるいは破気散結などの効能を持つ。 肺は気を、肝は疏泄を、脾は運化を、胃は受納を主るため、気機不暢は主に肺、肝、脾、胃などの臓腑機能の失調と関係がある。 たとえば、寒暖の失調、憂思鬱怒、痰飲、湿濁、瘀阻、外傷および飲食不摂生などの原因でいずれも先に述べた臓腑気機の運行に影響を及ぼし、それによって肺失宣降、肺失疏泄、脾胃昇降の失調を引き起こす。 気滞の特徴は脹って苦しく、痛むことである。 気逆になるものはよく嘔心、嘔吐、噯気、喘息が表れる。 発病の部位と病状の軽重が異なるので、具体的な証候も違う。 たとえば、肺失宣降は胸部苦悶感、咳、息切れが見られ、肝気鬱滞は側胸部、季肋部の痛み、胸苦しい、脱腸痛、乳房脹痛、あるいは結塊および生理不順がみられ、脾胃気滞、昇降失調は上腹部が張って苦しい、疼痛、噯気、呑酸、悪心、嘔吐、下痢または便秘などの症状が表れる。 また臓腑の間は密接な関係を持っているので、肝失疏泄は脾胃気滞を引き起し、脾の健運が失われると、湿が集まって痰を生じる。 また肺気の宣散、昇降にも影響を及ぼす。 本類の薬物を使用するとき、病状に応じて、相応する薬物を選択し、適宜配合する。 たとえば、肺気壅滞で、もし外邪が肺を侵襲する場合、宣肺、化痰、止咳の作用があるものを、もし痰熱鬱肺で、咳、息切れがある場合、清熱、化痰の作用があるものを配合する。 脾胃気滞で湿熱を兼ねるものには、清利湿熱の薬を、寒湿因脾のものには、温中燥湿の薬を配合する。 食滞不化のものには、消食導滞の薬を加減し、脾胃虚弱を兼ねるものには、益気健脾の作用がある薬物を併用する。 肝鬱気滞は兼証がわりに多いので、具体的な病状に応じて、養肝、柔肝、活血和営、止痛および健脾などの作用がある薬物を加減して配合する。 本類の薬物は辛、燥のものが多く、気を消耗し、陰を損傷しやすいので、気虚、陰の虧損者に慎重に使用すべきである。 |
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消導薬 | 消食化積(食物を消化し、積もったものを化する)を主たる効能とする薬物を消導薬と称する。 消導薬は食物の停滞を消化することができるほか、多くは開胃和中の作用を持つ。 そのうち、ある薬物は脾の運化機能を強める作用がある。 食滞による腹部膨満感、噯気、呑酸、悪心、嘔吐、便の失調および脾胃虚弱による消化不良などの証候に使用する。 臨床においては、異なる証候によって、適当に他の薬物を配合する。 普通、中焦に食滞があると、気機を阻むので、気のめぐりが失調し、脾胃気滞の証候が表れる。 消導薬を使うと同時に理気の作用がある薬を配合して行気寛中を行う。 それによって食物を消化し、滞るのを化する。 もし寒証がみられる場合、中焦を温める作用がある薬を配合して散寒行滞させる。 長く食滞があると、熱に化するので、苦、寒の薬を配合して泄熱導滞をする。 湿濁が中焦を阻むものには、芳香、化する作用がある薬を配合して化湿醒脾を行う、脾胃虚弱、運化無力のものには、脾を補って胃を整えることを主として、ただ消導薬の効能を利用するだけでは良くない。 |
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駆虫薬 | 寄生虫を駆除、あるいは殺す主たる作用がある薬物を駆虫薬と称する。 主に腸管内の寄生虫(例えば、回虫症、蟯虫症、条虫症、鉤虫症)に用いる。 寄生虫がある患者は臍の囲りに痛みがあり、涎沫を吐き出し、食欲がない、あるいはよく空腹になりよく食べ、肛門、鼻、耳に掻痒感があり、長くなると、顔色が萎黄になり、痩せてきてお腹が大きくなり、あるいは浮腫、無力などの証候がみられる。 ある患者は寄生虫の感染が軽いので、顕著な証候はないが、ただ検便のときに見つけられる者もいる。 臨床応用のときに、寄生虫の種類および患者の体質の強弱によって、適当な駆虫薬を選ぶべきで、また具体的な症状に応じて相応な薬物を配合する。 たとえば、鬱滞がある者には、消積導体の作用がある薬を、便秘には瀉下薬を配合し、虫体や虫卵を排出しやすくし、脾胃虚弱、運化失調のものには、健運脾胃の作用がある薬物を加減する。 体質が弱い者には、攻と補を兼ねて使用するか、先に補をして後に攻をするかにする。 駆虫薬は普通、空腹のときに服用する方が良い。 薬物が寄生虫に作用しやすく、駆虫の効果を高めることができる。 本類の薬物の中にある薬物は相当な毒性を持ち、正気を損傷することを避けるため、使用するとき、その量を特に気をつけなければならい。 発熱、あるいは腹痛が激しいときには、しばらく駆虫薬を使わない方が良い。 妊婦、年配者、体質が弱いものには、慎重に使うべきである。 |
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止血薬 | 体内外の出血をくい止めることを主たる作用とする薬物を止血薬と称する。 止血薬は主に出血病証に適応する。 たとえば、喀血、鼻出血、吐血、血尿、血便、崩漏、紫斑病および創傷出血などである。出血の証候を即時に有効的にくい止めなければ、血液が消耗される。 そして出血が多すぎることによって体質が弱くなり、もし大出血で止まらなければ、気が血について脱し、重篤な状態をきたす。 故に止血薬の応用は一般の出血や、創傷出血、あるいは戦傷急救の場合にも重要な意義を持っているのである。 止血薬には凉血止血、収斂止血、化瘀止血、温経止血など異なる作用があり、証候にあたっては、止血の原因と具体的な証候にしたがって、体は一つ全体であるという観点から出発し、相応する止血薬を選択し、そして適当な薬物を選んで配合し、治効を強める。 たとえば、血熱妄行のものには清熱凉血薬を、陰虚陽亢のものには滋陰潜陽薬を、瘀血阻滞による出血が止まらないものには行気活血薬を配合し、虚寒性の出血には、証候によって温陽、益気、健脾などの薬を併用し、出血が多量で、気が虚し気が脱そうとするものには、単なる止血薬だけでは間に合わないで、急いで元気を補う薬を用いて益気固脱をすべきである。 凉血止血薬と収斂止血薬を使うとき、瘀血があるかどうかに気をつけなければならない。 もし瘀血がまだきれいに取れていないとき、活血袪瘀薬を変えるべきで、ただ止血薬だけでは不十分で、瘀血が残る恐れがある。 |
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活血袪瘀薬 | 血脈を通利させ、血行を促進し、瘀血を消散するのを主たる作用とする薬物を活血袪瘀薬、あるいは活血化瘀薬と称し、活血薬と略称する。 そのうち、活血逐瘀の作用が強いものは、また破血薬と称する。 活血袪瘀薬は行血、散瘀、通経、利痺、消腫および鎮痛などの効能があり、行血失調、瘀血阻滞の証候に用いる。 瘀血症は臨床各課によくみられるが、その主な症状は、 1.疼痛(痛みの場所が固定して移らない)、あるいは痺れ、鈍麻感。 2.身体の外部、あるいは内部に腫塊があり、あるいは外傷による血腫がある。 3.内出血、出血のときに紫色の血塊がある。 4.皮膚、粘膜、あるいは舌質に瘀斑がある。 多種の病証の主な致病の素因は瘀血内阻で、少なからぬ疾患は疾病の過程中に血滞悪阻の証候が表れる。 たとえば、血滞による無月経、産後悪阻による腹痛、胸痺、季肋痛、半身不随、風湿による痺痛、癥瘕痞塊(腹腔内のしこり)、化膿性皮膚炎、打撲損傷、骨折、瘀腫などである。 瘀血証になる原因は多い。または、風寒の邪気に侵襲されるとか、あるいは営血が熱にいぶされるとか、あるいは痰湿阻滞とか、並びに打撲損傷などである。 それらによって血行が障害され、血滞悪阻になる。 故に活血袪瘀薬を運用するとき、証を立てて病因をよく弁えて、適当な薬物を選択し配合すべきである。 たとえば、寒凝による気滞血瘀には、温裏虚寒薬を配合し、営血打撲損傷には、行気和営薬を、癥瘕、痞塊には、化痰、軟堅、散結薬を配合すべきである。 正気不足の証候を兼ねるものには、相応する補虚薬を配合する。 人体の気血の間は密接な関係を持っており、気を行かせば、血をめぐらせ、気が滞ると、血も凝滞になる。 故に活血袪瘀薬を用いるときは、よく行気薬を配合し、行血散瘀の作用を強める。 本類の薬物は女性の生理過多の者には、使わないほうが良い。 妊婦には慎重に用い、あるいは使用しない。 |
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化痰・止咳・平喘薬 | 袪痰の作用がある薬物は化痰薬といい、咳嗽と喘息を軽減する、あるいは止める作用がある薬物は止咳平喘薬という。 一般に咳嗽と喘息の場合は、痰証が見られ、多痰の場合も咳嗽と喘息を起こすことが見られる。 そして、化痰薬は止咳、平喘の効果を兼ねるものが多く、止咳、平喘薬も化痰の作用を持っているのが多いので、この2種類の薬物は合わせて、化痰止咳平喘薬と総称されている。 化痰薬は主として多痰、咳嗽、痰飲による喘息、痰が喀出しにくい証に用いられ、止咳平喘薬は主として内傷、外感による咳嗽と喘息に用いられる。 また、中医学では、癲癇驚厥、癭瘤瘰癧などの証は、痰と密接に関連していると考えられているので、そういった証も化痰薬で治療している。 外感、内傷による咳嗽や喘息に対して、その症に応じた薬を選ぶほかに、病気の原因と病気の証類を観察して、適当な薬物を配合しなければならない。 たとえば、表証があるときに解表薬を配合し、裏熱があるときに清熱薬を配合する。 裏寒には温裏薬を、虚労咳嗽には、補養薬を配合する。 また癲癇驚厥には安神薬と平肝熄風薬を、瘰瘤瘰癧には、軟堅散結薬を配合する。 咳嗽かつ喀血の患者には、強刺激の化痰薬を与えてはいけない。 もし与えれば出血がひどくなる危険性がある。 はしかの初期の咳嗽に、清宣肺気を主として、止咳薬、特に温性あるいは収斂性質の化痰止咳薬を使ってはならない。 熱証がいっそうひどくなるかあるいは完全に発疹することができない。 | |
化痰薬 | 化痰薬物のうち、薬性が温燥なのは温肺袪寒、燥湿化痰の効果があり、薬性が寒凉なのは清熱化痰の作用がある。 寒痰、湿痰による咳嗽、喘息、多痰、また痰湿が経絡に阻んで起った四肢の疼痛と倦怠、瘰癧証などに、温燥の化痰薬を与えると、温化寒痰の効果となり、熱痰による咳喘、胸部苦悶、痰を吐きにくい、また癲癇驚厥、癭瘤などの堅い塊を治療する薬物は軟堅散結の効能を兼ねるものだと考えられている。 |
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止咳平喘薬 | 止咳平喘薬は咳嗽喘息の証に用いられる。 咳嗽喘息の証は比較的複雑で、そのうちには、乾咳で無痰、咳嗽で粘稠な痰、また咳嗽で稀薄な痰などの違いがあり、そのほかに、外感による咳嗽喘息と虚労による咳喘の違いがある。 寒熱虚実に応じて、適当な薬物を選択しなければならない。 |
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安神薬 | 神志を安定する効果のある薬物は安神薬という。 心は神を蔵して、安神薬は主に心に帰するが、肝は魂を蔵して、安神薬は肝とも一定の関係がある。 安神薬は主に心気虚、心血虚、心火偏盛および他の原因による心身不寧、心悸丁寧、不眠多夢および驚風、癲癇狂証に用いる。 安神薬には鉱物薬と種子類植物薬が多い。 鉱物薬は性質が重降なので、ほとんどは重鎮安神の作用があり、種子類植物薬は性質が潤補なので、ほとんどは養心安神の作用がある。 安神薬の選択もその配合も、病気の原因と発病の機序によって決めなければならない。 たとえば陰虚血少の者に、養血補陰薬を配合し、肝陽上亢の者に、平肝潜陽薬を配合し、胃火熾盛の者に、清心瀉火薬を配合する。 癲癇、驚風などの証に対して、化痰開竅あるいは平肝熄風の薬物を主とし、安神薬はただ輔助薬として使用する。 鉱物薬を丸散として服用すれば、胃気を傷めやすいので、養胃健脾の薬物を適量に配合したほうがよい。 しかし長期間持続して服用してはいけない。 |
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平肝熄風薬 | 肝風を止めて、陽を下ろす鎮静作用のある薬物は平肝熄風薬という。 平肝熄風には、熄風解痙効能と平肝潜陽効能の薬物があり、主に肝臓と関係する2種類の証に用いられる。 肝風内動によるひきつけ驚癇、肝陽上亢による眩暈めまい。 平肝熄風薬を使用するときに、肝風内動あるいは肝陽上亢のそれぞれの原因と兼証によって、違った薬物を配合する。 熱極生風、肝風内動の場合は、たいていは火熱が熾盛となっているわけである。 肝陽上亢の場合は、肝熱を兼ねるので、清熱瀉火、清泄肝熱の薬物を配合し、水不涵木は陰虚血少で、肝を滋養できず、それで肝風内動、肝陽上亢となり、その場合は滋腎養陰あるいは補血の薬物を配合しなければならない。 また、肝は魂を蔵するので、神志方面の症状を兼ねれば、安神薬を配合して使用する。 平肝熄風薬には動物類薬物が多いので、貝類薬は潜陽し、虫類薬は捜風するという説もある。 平肝熄風薬は寒凉の性質のほうが多いが、温燥のほうも少しあるので、よく区別して使用するべきである。 脾虚火、慢性の驚風には、寒凉の薬物をあまり使わないし、陰虚血虧の者には、温燥の薬物を慎重に使わなければならない。 |
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開竅薬 | 香りが強く揮発性があり、開竅、醒神を主要な効能とする薬物を開竅薬という。 心は神明を主るので、もし邪気が清開竅をはばめば、神明は閉じられて、意識障害が表れる。 ゆえに開竅薬はほとんどが心経に帰して、熱入心包、痰濁蒙敝による意識障害、譫言および驚癇、卒中による昏厥などの証に用いられる。 神志昏迷は虚証と実証に分けている。実証は閉証で、虚証は脱証である。 閉証には牙関緊急、手を握りしめて、脈は有力などの症状がみられ、脱証には冷汗、四肢が冷たい、脈が微弱などの症状が見られる。 閉証はまた寒閉と熱閉の二種類に分けている。 寒閉なら顔面蒼白、身体が冷たい、苔が白い、脈が遅いなどの寒象を呈し、熱閉なら顔面紅赤、身体が暑い、苔が黄で、脈は数などの熱象を呈する。 脱証には回陽救逆、益気固脱の薬物を用い、開竅薬は使用しない。 閉証には開竅薬を用いるが、寒閉に対して、温開法を使用し、熱閉に対して凉開法を使用すべきである。 また、発病の機序によって適当な配合をえなければならない。 たとえば凉開法には清熱解毒薬を配合し、温開法には袪寒行気薬を配合するなどである。 開竅薬は救急、標治のものであり、多用すると元気を消耗しやすいので、一時的に用いるにとどめ、脱証には禁忌である。 また、開竅薬は辛香で揮発性が強いので、内服には丸剤、散剤として用い、煎じ剤にはほとんど入れない。 この数年来、開竅薬を基礎薬として、温中止痛、行気活血の薬物を配合し、芳香温通の方剤として、冠状動脈硬化心臓病、狭心症などの治療に良い効果を収めている。 |
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補虚薬 | 臨床では虚証の種類によって適当な補虚薬を投与する。 たとえば気虚証に補気薬、陽虚証に補陽薬、血虚証に補血薬、陰虚証に補陰薬を投与する。しかし、人体の生命活動の過程中に、気血陰陽は相互に依存しあい、虚損されて不足な場合にも相互に影響しあう。 気虚と陽虚は人体活動機能が減退した表れで、陽虚に気虚を兼ねることが多く、気虚も陽虚を起こしやすい、陰虚と血虚は精血津液が消耗、損傷される現れで、陰虚に血虚を兼ねることが多く、血虚も陰虚を起こしやすい。 それゆえ、補気薬と助陽薬、補血薬と養陰薬を同時に使用することが多い。 もし気血両虚あるいは陰陽両虚の証であれば、その症状に応じて、気血あるいは陰陽とも補養しなければならない。 実邪の病証に補虚薬を投与すると、閉門留寇(盗賊を家の中に閉じ込める)となって、病状をひどくさせる恐れがある。 実邪がまだ完全に退いていないが、正気がすでに虚している場合に、補虚薬を少量に、抵抗力を強める意味で補助的に加えることができる。 これは扶正袪邪のやり方である。 証に応じない補虚薬の使用はむしろ有害である。 たとえば、陰虚有熱の者に補陽薬、陽虚有寒の者に補陰薬を投与すると、みな悪い結果を出す恐れがある。 補虚薬を投与すると同時に脾胃の機能を考えるべきである。 補虚薬には健脾胃の薬物を適当に配合する。 そうしなければ、補虚薬は消化・吸収されなく、治療効果があがらない。 |
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補気薬 | 気を補う作用があり、気虚証を治療する薬物は、補気薬と称する。 気虚とは、人体の生理的な機能が不充分な状態を指す。 補気薬はその生理的な機能を強めることができ、特に脾臓、肺臓の機能を強められるので、脾気虚と肺気虚の病証には最も適する。 脾は後転の本で、生化の源である。 脾気虚であれば、食欲不振、泥状便、誨腹虚脹、倦怠無力、さらに浮腫、脱肛などの症が現れる。肺は一身の気を主るので、もし肺気虚であれば、元気なく、口数が少ない、動くと呼吸困難、息切れ、自汗などの症が現れる。 以上の症状があれば、補気薬で治療することができる。 臨床で補気薬を投与するときには、現れた気虚の症によって補気薬を決める。 また陰虚あるいは陽虚の兼証があれば、補陰薬あるいは補陽薬を配合する。 気は血に対して生成作用、統摂作用があるので、臨床で補血、止血の治療にも補気薬を多く使用する。 補気薬を服用して、胸部苦悶、腹部膨満、食欲不振など気滞の症状が現れると、理気薬を適当に配合した方が良い。 |
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補陽薬 | 人体の陽気を補助して、陽虚証を治療することができる薬物は、補陽薬と称し、助陽薬ともいわれる。 陽虚証には心陽虚、脾陽虚、腎陽虚などの病証がある。 腎陽は元陽で、人体の臓腑を温煦、生化しているので、陽虚の各証もおうおう腎陽不足と密接に関連している。 腎陽虚の主な証候は、寒冷を嫌う、四肢の冷え、腰や膝がだるく無力あるいは冷痛、インポテンツ、早漏、不妊症、帯下は稀薄で、夜間多尿、脈が沈、舌苔が白などである。 助陽薬は腎陽を補い、精髄を増し、筋骨を強くする作用があるので、前述の諸病証に適用している。 このほか、腎陽が衰えていて、脾胃を温運できなくなると下痢を起こし、納気できなければ呼吸促迫が現れるので、補養薬または脾腎両虚による下痢と肺腎両虚による呼吸促迫に用いられる。 補養薬の多くは温燥で、陰液を損傷して火熱を助長させるので、陰虚火旺証には使用しない方がよい。 |
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補血薬 | 補血薬とは、血を補い、主として血虚証を治療する薬物のことである。 血虚の基本的な症状は、顔色が萎黄、唇と爪の色が淡白、頭がふらつく、目がかすむ、動悸、女性では月経周期の遅延、月経量の減少、色が淡、はなはだしきは無月経などである。 血虚の症状であるかぎり、すべて補血薬で治療することができる。 血虚と陰虚は密接に関連しており、血虚はおうおうにして陰虚をきたし、もし血虚が陰虚を兼ねると、補血薬に補陰薬を配合すべきである。 補血薬の中で、補陰の効能がある薬物もあり、それは補陰薬として用いられる。 また補血薬は常に補気薬とともに使用し、補血の効果を強めることができる。 補血薬は滋潤性があってしつこいので、消化不良をおこしやすい。 湿濁停滞による腹が脹って苦しい、食欲不振、泥状便などには使用してはならない。 脾胃虚弱者には、食欲に影響しないよう健脾和中の薬物を配合すべきである。 |
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補陰薬 | 滋養陰液、生津潤燥の効能があって、陰虚証を治療することができる薬物を補陰薬と称する。 陰虚証は常に熱病の晩期あるいは慢性病に発生するものである。 もっともよく見られるのは、肺陰虚、胃陰虚、寒陰虚、腎陰虚などである。 基本的な症状としては、肺陰虚では乾咳、痰が少ない、喀血、潮熱、口と舌の乾燥など、胃陰虚では舌質絳、舌苔白、咽が乾き、あるいは食欲不振、あるいは上腹部の不快感、嘔吐、呃逆、あるいは便秘など、寒陰虚では眩暈、目がかすむ、目の乾燥など、腎陰虚に腰や膝のだるい痛み、手のひらや足の裏のほてり、煩躁、不眠、遺精、あるいは潮熱、盗汗などがよく見られる。 補陰薬にはそれぞれの特徴があって、陰虚の違った症状によって、選んで使用すべきである。 補陰薬を使用する場合、もし熱病で陰液を傷つけ熱邪がまだ残っていたら清熱薬、陰虚による内熱が盛んであれば清虚熱薬、陰虚陽亢には潜陽薬、血虚を伴えば補血薬、気虚を兼ねれば補気薬を配合すべきである。 補陰薬の多くは、甘寒でしつこいので、脾胃虚弱、痰湿停滞による腹脹、泥状便には使用しないほうが良い。 |
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収渋薬 | 収斂、固渋を主な作用とする薬物は、収渋薬と称する。また固渋薬ともいわれる。 この種の薬物の性味は、多くは酸渋で、それぞれ斂汗、止瀉、固精、縮尿、止帯、止血、止咳などの作用がある。 慢性病の体質虚弱、正気が固摂できないことによる自汗、盗汗、慢性下痢、遺精、滑精、遺尿、頻尿、慢性咳嗽と喘息、および不正性器出血、白色帯下などの滑脱の証候に適用している。 収斂固渋薬を使用する目的は、滑脱のためさらに正気を損傷することを防ぐことにある。 収斂固渋は、疾病の標本を治す、ただ一時的な治療方法である。 ただし滑脱の証候を起こす根本的な原因は、正気虚弱にあるので、収渋薬を使用するときに、相関している補益薬を配合すべききである。 たとえば気虚による自汗、陰虚による盗汗には、それぞれ補気薬、養陰薬を配合すべきである。 脾胃虚弱による慢性下痢と慢性白色帯下には、補益脾腎薬、腎虚による遺精、活性、遺尿、頻尿には補腎薬、衝任不固による不正正気出血には補肝腎、固衛任薬、肺腎虚による慢性咳嗽、喘息には補肺益腎納気薬を配合すべきである。 要するに、具体的な証候によって、病因を見極めて、適当な配合をはかってはじめて良い効果をおさめることができる。 収渋薬は邪を留める恐れがあるので、表証が治らないとき、あるいは湿邪、熱邪が体内に停滞しているときにはすべて用いない方がよい。 |
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催吐薬 | 嘔吐させることを主要な作用として使用する薬物は催吐薬、あるいは涌吐薬という。 内経には「在上者涌之」ということばがある。 つまり、人体の上部(咽喉、胸脘)に毒物、宿食、痰涎があれば、皆催吐法を用いてよく、邪を吐かせて病気を治療することになる。 それで、誤飲された毒物が胃に停留して、まだ吸収されていないとき、宿食が消化できないで生じた誨腹部が張って苦しいとき、痰涎がつまって呼吸困難になっているとき、あるいは癲癇、狂躁などの証に対しては、皆催吐法を用いて治療することができる。 催吐薬は作用が強烈で、たいてい毒性があり、また嘔吐をおこして、内臓に影響を与えることもあるので、慎重に使用しないと悪い結果が出る恐れがある。 それで、気壮(体質がよくて正気が旺盛)邪実の証だけに使用し、体質が弱い者、老人、小児、妊婦および出血症、めまい、動悸、虚労による喘息、咳嗽の症状がある者には禁忌とする。 催吐薬を用いるときには、その容量と用法および使用上の注意に気をつけなければならない。 一般には催吐薬を用いるときには、量を少しずつ増やして、中毒や嘔吐が止まないことを防ぐことができる。 また催吐薬を服用してから、熱いお湯を多く飲むと、薬効が上がり、吐かせやすくなる。 もし服用により嘔吐が止まない場合は、適当な救急処置を取らなければならない。 |